がんの痛みに苦しむ患者さん、ケアに係わる医療従事者すべてに送る緩和薬物療法の基本です。
「モルヒネはいつ、どのように、どれくらい使えばいいのか?」
「レスキューはどれくらい空けたらいいのか?」
みんなが思っているモルヒネの疑問に現役薬剤師HAMAYOが答えます。
1.がん疼痛の目標
疼痛緩和は「誰でも」「どこでも」できます。
都市、地方関係なくすべての患者ががんの痛みから解放されるために、WHOが「がん性疼痛緩和のガイドライン」を発表しています。
1-1.癌の痛みの発生頻度
がん治療を受けている患者の約30%に痛みが発生する。末期癌では約70%に痛みがあり、しばしば複数の部位におこる。
疼痛緩和をしなければ、3人に1人は夜も眠れないくらい耐えがたい痛みに悩まされてしまう。
1-2.疼痛緩和ガイドライン
- 痛みで目覚めない
- 安静時に痛みがない
- 体動時に痛みがない
患者の状態に合わせた目標設定をします。
まずは①を目標にして、①ができれば②、②ができれば③と患者個々の痛みに応じた目標を一つずつ達成していくことが重要!
1-3.トータルペインから解放
原因が分かる痛みだけでなく、精神的・社会的・スピリチュアルなすべての痛みから患者を解放する必要があります。
- 身体的苦痛
- 精神的苦痛
- 社会的苦痛
- スピリチュアルペイン
例)痛み・身体症状・日常生活の支障
例)不安・いらだち・孤独感・うつ
例)仕事・経済的・家庭上の問題
例)人生・死・宗教・価値観の悩み
2.投与ルートの基本
5つの基本原則を遵守した投薬をすることをWHOは推奨しています。
- 可能なかぎり経口投与
- 時間を決めて規則正しく投与
- 三段階疼痛ラダーに応じて
- 患者個々の適量を決める
- 細かい配慮を
- 服用後、10~30分で効き始めます
- 痛いときは、いつでも服用してOK
- 1時間あければ何回でも服用してOK
- 痛みが予測されるときは事前に使ってOK
用量調節がしやすく、患者自身が管理しやすい経口投与が原則です。嘔吐、嚥下困難、消化機能低下といった場合は座剤、貼付剤、頸静脈投与を検討します。
がんは持続性のある痛みです。
鎮痛薬を持続的に効かせるために、時間を決めて定時的に投与します。
がんの進行度に関係なく、痛みの程度に応じた鎮痛薬を選択することが重要です。痛みが強い患者は第二段階もしくは 第三段階から開始してもよい。
必要に応じて、非オピオイド、抗うつ薬などと併用することが推奨されています。
※()はモルヒネの50%鎮痛用量を1とした各作用の発現用量
非オピオイドや弱オピオイドの効果は有限であるが、強オピオイド(モルヒネなど)の効果は無限だとされています。モルヒネは至適投与量に個人差が大きく、至適投与量から外れると副作用がでてくるため注意が必要です。
モルヒネの使用を躊躇する患者さんは多いが、痛みは絶対に我慢しない!正しい使い方と副作用について知ることが重要です。
特に導入時は便秘や吐き気が起こりやすいため怖く思われがちだが、自己判断で中止しないようにすること。
3.モルヒネの誤解
麻薬中毒になる、寿命を縮める、副作用がきついといったことを患者はよく口にしますが、これらはすべて間違いです。
末期がんのモルヒネ使用は痛みを抑える手段の一つに過ぎない。正しいモルヒネの使用で中毒になることはなく、寿命を延ばす効果も期待できます。
4.レスキューの重要性
がんの痛みには持続的な痛みと突出した痛みがある。体動時の痛みなど一過性の痛みに臨時で痛み止めを投与することを 「レスキュー」という。
4-1.レスキューの誤解
突発的な痛みに対してレスキューをしっかり使うことで、定時投与のモルヒネを増量することなく、痛みが軽減する事例が多く報告されています。
4-1.レスキューの依存性
痛みがある患者がモルヒネを使うとき、麻薬依存・中毒にはならない。モルヒネは痛みにより崩れた受容体のバランスを整えるだけです。
痛みがないのにモルヒネを多用したときは、依存がおこる可能性があります。痛みがなければ、使用しないでください!
5.レスキューの使い方
⦿オプソ内用液・オキノーム散:
15~30分で効果を発揮します。
⦿アブストラル舌下錠・イーフェンバッカル錠:
10~15分と早めに効果を発揮します。
食事の有無に関係なくいつでも服用できます。突発的な痛みがでたらすぐに飲んでください。
一般的にレスキューとして使われるオプソ内用液やオキノーム散といったモルヒネは1時間あければ何回でも服用できる。坐剤タイプのアンペック坐剤は効果時間が長いため2~3時間はあけたほうが良い。
⦿アブストラル舌下錠:
2時間以上あけて1日4回まで
⦿イーフェンバッカル錠:
4時間以上あけて1日4回まで
体動時や定時薬の効果がきれるすきま時間など、痛みが予測されるときは事前にレスキューを使うことができます。
6.記事の指導せん
※一般的に使用されるモルヒネ専用です。
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私の祖母はがんにもがき苦しみ他界しました。疼痛緩和がよくわからない患者さんにお渡ししたい指導せんです!
7.まとめ
モルヒネの安全性・副作用・レスキューの使い方を正しく知ることで、患者は痛みから解放されて、家族との時間を有意義に過ごせます。普段、麻薬を扱わない医師・看護師・薬剤師もぜひ把握してください。
投与量が大きく外れることがない限り、副作用がでる心配はありません。
主治医・医療スタッフと相談しながら合った量を探しましょう。